⚫︎ドワーフの“乱用”に感じる違和感
ブログを書こうと思ってから半年。最初の記事として取り上げたいのが、ここ数年特に気になっている「ドワーフ」というラベルの扱われ方です。
多かれ少なかれ、「ドワーフ=矮性個体」ではないものが“ドワーフ”として流通している現状には、はっきりと違和感があります。
「希少」「矮性」といった言葉が価値を跳ね上げる一方で、植物の形質そのものについて語られることが少なすぎる。

⚫︎“ドワーフ・ホリダス”急増の裏側
ここ4〜5年で急激に増えた「ドワーフ・ホリダス」という名称。確かにホリダスの野生個体群には、矮性傾向の強い個体が存在します。
本来のドワーフ・ホリダスに関して現時点での情報をまとめると、南アフリカ・ポートエリザベス周辺の局所的な個体群で確認されているそうです。
特徴としては、
- 開花年齢が早い(早熟性)
- 葉のカールが強い傾向
- 茎節間が詰まりやすい
など、形態的・生理的に一貫した“ドワーフ性”を示す点がポイント。
ただし、ここが重要です。
「葉のカールが強い=ドワーフ」ではありません。
⚫︎なぜ“見た目だけの判定”が危険なのか?
ホリダスは環境ストレスに敏感で、光量・水分・肥料・根域・流通ストレスによって葉形が大きく変動します。
- ノーマルでも短葉が出る
- 輸入前の葉、入荷直後の葉、次の展開葉はそれぞれ別物になりうる
-
葉先巻き・巻き戻しは一定の頻度・確率で起こる
つまり、単一の時点の葉だけを切り取って“ドワーフ認定”するのは不正確です。
〈下から中央へ順に、現地で展開した葉、輸入直後の葉、フラッシュ中に水を得て徒長した葉、フラッシュ中に水を切りカールを狙って管理した葉〉
現市場には「自称ドワーフ」が溢れています。
流通個体の中には、「その瞬間の葉の雰囲気がドワーフっぽい」という理由だけで “ドワーフ”として扱われている株が少なくありません。
そもそも日本で、ホリダスを扱うショップのオーナーのうち、複数株を数年単位で追いかけ続けた人が、一体どれほどいるでしょうか?
また、一部では、 矮化剤で人工的に矮性状を強めた株が“ドワーフ”として出回るケースも確認されています。
植物本来の姿ではなく、人為的ストレスで作られた偽の矮性です。
植物の価値を決める軸が、ますます歪んでしまう。僕たちはそう危惧しています。
(余談にはなりますが、当店のノーマルホリダスで葉のカールが強めの個体を見た海外ナーセリーのオーナーが 「これは良いドワーフだね!」と即断したことがあります。
悪意があるわけでもなく、見た目としては確かに“ドワーフ的”で、言った本人も本気でそう思っている。だからこそ余計に言葉の使われ方が少しズレていくのかもしれません。)
⚫︎流行に振り回されず、本質を見る目を養うということ
“ドワーフかどうか”は植物の絶対的価値ではありません。
名前や希少性、矮性だけで飛びつくのではなく、“目の前の株の実力”に価値を見いだす楽しみ方こそ、健全な植物文化ではないか。
そういう業界を、僕たちは目指していきたいと思います。
ROUTE BOTANICALS
松井 孝太
新連載:「屋上スパルタ管理日記」

東上野の屋上で、南アフリカ生まれのエンセファラルトスを大量管理しはじめ、気がつけば10年。灼熱の夏も、雪がちらつく真冬の夜も、屋上で鍛えられてきたエンセたち。彼らの成長記録を、ゆるく、深く、そして時に辛口で綴っていきます。エンセファラルトスを甘やかすな!乞うご期待。
