今回の旅の目的は、南アフリカで自生するエンセファラルトスをこの目で見ることだ。
写真や論文から、その姿や生育環境を知ることはできる。けれど、植物がどんな場所で生き、どんな景色のなかに根を張っているのかは、現地に立たなければわからない。
南アフリカと聞けば、多くの人が思い浮かべるのはケープタウンだろう。
テーブルマウンテンや美しい海岸線、ペンギンが暮らすビーチ。世界有数の観光地として知られる場所だ。
しかし、今回向かうのはその対極にある北東部。ヨハネスブルグからさらに東へ、およそ500km。サバンナが広がる大地の先に、自生地がある。
今回足を踏み入れるのは、王者の風格をたたえるブルーサイカス、ミデルバーゲンシスやラナタスが自生するエリアである。

⚫︎渡航前の準備
今回の旅支度で、いちばん骨が折れたのはワクチンかもしれない。
幼い頃に受けた予防接種も、時間の経過とともに十分な免疫が維持されていないものがある。渡航先で推奨されるワクチンを確認していくと、追加接種がいくつも必要になった。
接種費用は、妻と二人で約20万円。思わず笑ってしまうような金額だが、旅先での安心には代えられない。数回に分けて接種を受け、副反応で高熱を出しながら、一つずつ旅の準備を進めていった。

荷物はバックパックひとつ。服は動きやすく、乾きやすく、現地で目立たないことを基準に選んだ。
ここで新品のアウトドアウェアを揃えるのは避けたい。治安面を考えても、着慣れた服や使い慣れた装備のほうが安心感がある。
撮影機材も含めた荷物の総重量は約12kg。できる限り削ぎ落としたつもりでも、長距離を背負って歩けば、その重みはじわじわと肩にのしかかってくる…。

⚫︎なぜ自生地を見る必要があるのか
もちろん単純な好奇心もある。
ただそれ以上に、自生地を見ることが、その植物を知る一番確かな方法だと考えている。気候や土壌、降水量といったデータは、調べればある程度は出てくる。ただ、それだけでは見えてこない部分が必ずあるのだ。
なぜその葉性になるのか。
なぜそのサイズ感に収まるのか。
どんな光を受け、どんな風の中で成立しているのか。
数字や記録の外側にある、“そうなる理由”の部分を僕は知りたい。
また、植物そのものだけではなく、その周囲の環境にも関心がある。
現地で暮らす人間との距離感。
そこに生きる動物との関係。
植物が特別に扱われているのか、それとも風景の一部として成立しているのか。
「植物を買うこと」から「植物を知ること」に興味がでてからは、おのずと植物に関する情報以外にも目を向けたくなり、これはもう現地を訪れずにはいられないなと。
ここからは、実際に現地で見た景色や感じたことを、できるだけそのまま記録として残していこうと思う。
図鑑や写真では分からなかったこと、自分の予想と違っていたこと、そして植物そのものだけでなく、その土地の空気や人々との距離感まで。
うまく整理された情報というより、一人の植物好きが現地で見て、考えて、感じたことの積み重ねを記していきたい。
合間をみながら随時追加していくのでお楽しみに☺︎
◎今回の渡航記は、2026年6月29日発売の『GREAT BOTANY vol.4』にも掲載していただいています。執筆/写真は妻・富田有為。ブログとは異なる内容を収録しているので、あわせて手に取ってもらえたら嬉しいです。
ROUTE BOTANICALS
松井孝太
